2024年11月1日〜11月4日の4日間、アメリカ・アイオワ州にてJBCN初となる農業視察ツアーを敢行いたしました。ツアーにご参加くださった前田農産食品株式会社(北海道十勝)の前田さんが、Facebookに素晴らしいレポート記事を掲載されていましたので、ご本人承諾のうえHPに転載させていただきました。ありがとう、前田茂雄さん!
Am I doing sustainable farming?
Bill asked us and always by himself.
Jaw Dropping experience at Mr. Bill Couser farm in Nevada Iowa.
開いた口がふさがらないほどの最上級の農場視察になりました。とにかく課題解決型農業の中でも半端ではない取り組みの連続でした。
1999年私はIowa State University(ISU)をわずか半年しか過ごしていません。ですが、その間の土日は、大学のExtension program, Practical farmers of Iowa(PFI)というプログラムでアイオワ州各地の農場の研修プログラムにオンボロBronco II(愛称はボロン子)というフォード車に乗って参加していました。
当時はスマホもなくAtrasという全米地図が載っている地図を膝に乗っけながら各地を走っていました。そらから25年以上過ぎるわけですが、当時から農村風景は変らず遺伝仕組みかえ大豆とコーン畑と多少の牧草地。ん~つまんない(笑)。
表面風景は変らずで、変化がないのかなと思いきや内面は大改革が行われており、実際に今のほうが発展し豊かに見えます。
種苗農薬メーカーの種子技術発展による収量増加、大規模化と機械超大型化とコントラ(肥料農薬散布の請負業)普及、そして今日お話ししたいバイオエタノールや天然ガスによる産業自体の付加価値向上と持続可能な農村風景の将来像です。
Ames(エイムズ ※アイオワ州の都市)近くに農場を営んでいるBill Couser(ビル・カウザー)さんに皆に会いにいこう!とレンタカーを走らせることおよそ45分。到着して挨拶もそこそこに、Billが徳本さんのお土産交換がはじまり、Billからは農場でとれたハチミツ。「見てくれよ、牛の顔した蜂の絵が描かれてクールだろ?」と笑顔で紹介してくれたところから視察はスタート。アイオワでハチミツ?と意味は解らなかったのですが、実は大いなる伏線。Billは最初に渡したこのプレゼントを通じて、彼の農業の本質を伝えていたのです。
今日は、ISU VS Texas Tech Universityのアメリカンフットボールの大会日で、応援ファンが大勢集まる”Tailgate”という集いがあるからランチ含めていこう!となり、ISUに突撃するとそこには何万人もの人人人で、寒空の下、大学生も地域の大人たちも皆でビールやハンバーガーやホットドックをつくりながら、試合前の興奮を楽しんでました。
ホームタウンでのフットボール試合は年間7~8試合くらいあるそうで、ISUサイクロンズは今年奇跡の6連勝と調子がよく、会場もめちゃ盛り上がって、サイクロンズが大型バスで出てくるとグラスバンドや歓声も大盛り上がり! 大豆コーンの収穫がほぼ終わる時期のため農業関係者も多く、「こうした地域ゴトに出て情報交換するのも非常に役にたつし、今日は日本人農業者(我々)をつれてきたりと自分が新しい情報源でもあり、皆興味深々なんだぜ」と、地域事業において挨拶することの大切さについて話すBill。残念ながら数ポイントの差でISUサイクロンズは負けてしまったようですが、北海道にファイターズがあるように、スポーツが地域や人々を繋げる役目は大きいと思ったのです。
次にBillが紹介してくれた巨大プラントは“Verbio Nevada Biorefinery”。
工場の入り口、屋根だけ被った巨大な倉庫に、酪農家でいうビッグベイラーが山積みされていました。「これはCorn Stover(コーン・ストーバー)という、セルロースエタノールの生産に使用されている主要なバイオマス源で、コーンの茎葉や穂軸である」とBill。農家はセルロース糖を得るために茎葉を収穫し、それを発酵させてエタノールにすることができる。二酸化炭素排出と地球温暖化への懸念から、トウモロコシの茎葉をエネルギー生産に使用することに新たな関心が寄せられてるとのこと。正に先日、日本の経済産業省がバイオ燃料の比率を2030年までに10%まで高めるとしましたが、そうした燃料資源をコーンの残渣(通常は畑の有機物)になるものからエタノールにする工場を紹介してくれました。Corn Stoverの意味が解らずその場では全然理解できませんでしたが、調べてみるとこりゃ凄い化学と環境需要の大きさだと気づかされます。日本のクボタも稲わらで取組はじめてますね。
コーン・ストーバーについて
https://www.agmrc.org/commodities-products/renewable-energy/corn-stover
Billによると、Corn Stover収穫時の最大の敵は土。通常だと収穫ではコーン残渣を土にまき散らしてしまうため、土が付着してしまいます。そのためコーン残渣がコンバインから直接入る特殊なベーラー機械も作ってしまったそう。
次に案内してくれたのが、ここは「俺が出資して作ったエタノール工場なんだよ」「Whatっつ!!?」と聞き返してしまうくらい、巨大な、コーン子実原料からつくるバイオエタノール工場、Lincolnway Energy 社。
実際に工場内を案内してもらいましたが、すべてが桁違い。この工場が製造するのはバイオエタノール、DDG(発酵乾燥飼料)、二酸化炭素販売と3つ。100軒の農家や地域商業者、住民、投資家らが2012年に発想立案し、2014年からプラント建設が始まったそうです。農業者自らなぜプラント施設まで?という質問に、「過去も現在も、市場相場のコーンや大豆の生産は、農家と地域経済の不安定さを産んできた。この施設は、これら農産物に新しい付加価値を生み出し、出資配当という形で副収入をつくることができる」との回答。20人のボードメンバーを据え、さらには化学プラントマネジメント、マーケティング、財務や弁護士など優秀なキャビネットを入れて運営をしているとのことでした。コーン農家も複数工場がある中でどこにコーンを運ぶかはその農家の自由ですが、コーンの買取価格にくわえて、利益配当(8~14%)があるのであればこのプラントに出荷しようという動機づが働く仕組みには膝を打ちました。利害関係社全員が、間接的にでも地域雇用や経済発展に寄与できている嬉しさがあるのでしょう。
バイオエタノール工場は2000年代が勃興期で全米各地に建設され、すでに淘汰の時代は過ぎ、現在生き残っているところはマネジメントの上手く行っているプラントだと言ってました。
こうしたバイオエタノール生産をどう社会実装し普及させるか?それにもBillは積極的に取り組んでいて、次に連れて行ってくれたのは小さな町のガソリンスタンド。普通のレギュラーガソリンに、E15、E20、E30、E85(!)と5種類ものガソリン+エタノール選択肢がありました(※数字は含有されるエタノールの割合)。しかも普通ガソリンよりも割安! 「大手のスタンドでなくパパママショップ(家族経営の小規模店舗)のようなスタンド経営者にとっても、消費者にもエシカル消費の選択肢を示すことで差別化となり、環境配慮型の客を誘致できるんだ」とBill。コミュニティへの貢献が嬉しいんだと話していました。
次に行ったのが、Billの農場の機械ショップ。彼の農場規模は15000acre (6000ha)ほど。スタッフは現地アメリカ人2名、南アフリカからの研修生が3名+ISUの学生が3名くらい、種まきや収穫時期になると数人助っ人をよぶとか。48m級の自走式スプレヤーが4台もあり、聞くと5000acre (2000ha)ほどGMのコーン種子生産委託作業のコントラ業もやっているとか。長期で働き手の労働者を確保するのは年々難しくなっていきていると言っていたのが印象的でした。
また、来期から使用するといって導入したStrip tillageプランターをコーンで使用するとのことでした。要は種まきする畝上のところの列だけを整地するやり方。後日訪問したMitchell Holaの農場もそうですが、GPS+不耕起プランター+GM作物により、除草剤体系の簡易化が計れているようでした。写真参照
それからちょっと離れた高台っぽい畑へ。コーンと大豆残渣のベーラーが山一杯積まれた場所ですが、はて、何でここに連れてきた? 「ここは昨年、Global Farmer Network & Nuffield scholarshipの農家のためのワークショップをやった場所なんだ」とBill。「Wait a minutes, did you say “Nuffield”? I am running Nuffield farming scholarship as one of branched countries of Nuffield International.(ちょっと待って、ナフィールドって言った?僕はナフィールドインターナショナルの支部を運営してるんだ)」と聞き返すと、「Shit! It’s wholy small world!(なんて世界は小さいんだ!)」。彼が、私らが運営しているナフィールド国際農業奨学金制度の実践農場主だったことも発覚! 嬉しいかぎりでしたし、彼の取り組みは唸りをあげてしまうほど納得の実践農場だなと思いました。
その高台の農場には、平らな畑になめらかな牧草の急斜面があり、小川が流れていました。Billは「あそこに蜂の巣箱が置いてあるの見えるか?」と指先し「あれがプレゼントした蜂密がとれた場所なんだよ」と。この牧草傾斜の下には”Tile Drainage”という暗渠が入っていて、実験的に暗渠溝に木質チップを入れ、畑の土壌からの流亡するNPKなどの濃度を下げる浄化の実証実験を行っているとのこと。実際に蜂たちが生態系としていきられるかどうか、環境配慮の見える化をやっているんだと。ここで冒頭の瓶詰めのハチミツへと繋がるわけです。取組が深すぎる!
その後、Billが飼育する1万頭の肉牛生産農場へ。穀物生産+冬季の安定収入を得られる畜産(牛or養豚)=複合経営はアイオワ州ではよく見られます。投機的、奇をてらうような和牛生産ではなく、ほとんどがアンガス種やヘリフォード種の通常の肉牛生産。餌はもちろんエタノール工場ででてくるDDG飼料を中心に、ただのアッペンコーンでなくより栄養吸収性の高く成長効率のよいDDGを使っているとのことでした。問題は、全米には超巨大な大手5社のミートパッカーしかなく、労働ストによる工場一次閉鎖で価格が駄々下がり不安なこと。これは日本も一緒だなと。
最後に、Billのオフィスで、農場プレゼンをあらためて着座で聞く。我々が視察で見た姿は2024年10月末の今の姿。そこまで6代に渡ってやってきて、特にBillの代、45年ほどの間でやってきた農場課題解決にむけた改革を紐解くわけです。
Billに一貫してるのは、「Am I doing sustainable faming?(自分は持続可能な農業をやっているか?)」という問いかけと投資。GMコーンと大豆を活かしつくすこと。環境生態、地域経済、消費者の声ある環境づくり、異業種や政府関係者との関係構築、農家自身の生活バランスや収益性、グローバル展開など本当に幅広く、正しく化け物みたいなレジェンド農家に会えたなという、あっという間の6時間でした。
最後にどこからそのモチベーションが来るのか?という問いには「将来の次世代(家族や地域含め)に繋げるために、仕組みづくりを確認しておく必要性があるんだ」と一言。
当然どの農場にも学ぶべき視点はどこいってもあります。Bill Couserは、考えていることが壮大ながらも、細部をしっかり抑えているスーパー農業経営者であり、持続性を真に信じ、地域愛にあふれ、ジョークもたっぷりの魅力的な超人ファーマーでした。
前田 茂雄 Shigeo Maeda
前田農産食品株式会社 代表取締役。Nuffield JAPAN 理事長。
Facebook