2024年11月1日〜11月4日の4日間、アメリカ・アイオワ州にてJBCN初となる農業視察ツアーを敢行いたしました。ツアーにご参加くださった前田農産食品株式会社(北海道十勝)の前田さんが、Facebookに素晴らしいレポート記事を掲載されていましたので、ご本人承諾のうえHPに転載させていただきました。ありがとう、前田茂雄さん!
種を制するものは世界を制する?
@CORTEVA R&D Center
渡米後、World Food Prize (世界食糧アワード)が3日間(10/29〜10/31)あり、その後の11/1から農業研修をJBCN理事長の徳本さんと和多瀬さん、通訳の浦壁さん、北海道安平町の富樫ファームの富樫さんという5人の珍道中チーム(笑)が発足。4日間の濃厚な旅が始まりました。
その1日目の視察先がCORTEVA社。
コルテバは吸収合併を繰り返して巨大な種子や農薬メーカーに成長。パイオニア、デュポン、ダウケミカルズなど農家なら聞いたことあるような会社が合併していって、5000人もの研修者が世界各地に散らばっているという圧倒的な規模で、農業を化学と科学でデザインする会社でした。訪ねた11月1日は、初霜がおりるほど冷え込みました。
コンプラ上、身元不明の者は入れないということで、渡航前にパスポートのコピーなどを送っており、当日受付で照合する本人確認。受付で撮った写真がプリントされたカードが即席のIDになるのですが、運転免許証の100倍は人相悪くプリントされていて、本人確認になってないのではないか?という皆で爆笑、ザワつきからスタート(笑)。
まず、農学博士のKevinから会社概要の説明を受けます。世界中に100以上の作物、150のR&D施設に5000/21000人以上の研究者、1000万人以上の顧客(農業者)をもつ巨大企業。遺伝子研究や作物保護技術(農薬やIPM剤、バイオスティミュラント剤)、地域(国やエリア)別の製品開発をしているのが強みとなってます。
1942年 → 2020年代までの種子の交配技術による収量性の違いを話してもらい、GM作物技術は1960年代からスタートし2000年にはすでにある程度のコーン、大豆が栽培されており、データが集積されていったようです。Kevinさんからは、遺伝子組み換え(Genetical modified)と遺伝子編集(Genetical editing) の違い、様々な病気の耐病性のある遺伝子の発見などについて話がありました。
また、3m以上にもなるデントコーン丈を短くしても(台風による倒伏防止対策)収量品質が変らないことや、従来の肥料量を必要としない遺伝資源の発見、育成研究をしている例もありました。
概要説明が終わり、専用バスに乗ってR&D研究棟へ。施設中は当然企業機密事項ばかりで撮影は不可でした。2万本近くの様々な種試験を多様な環境下で一斉に一定にできる設備となっており、多くがオートメーション化されていました。たとえば、苗ポット個体識別のバーコードが貼付され、生育状況や収量品質傾向などをカメラで撮影してAIで評価するといった具合です。特殊な肥料をやるわけでなく、一般的な圃場汎用に近い土ポットでできてました。
それから実際の研究棟へ。遺伝子組み換え作物の種を昔は衝撃ガンのような器具で作っていたらしく、これで?みたいな感じでしたが、今では全く進化しているようです。
研究所では種の親株をつくって、実際には種増殖畑でつくられます。それから、種子消毒と調査研究棟へ。種は殺菌剤+殺虫剤+時には菌根菌などのミックスを大豆やコーン、なたね、ひまわり、ビートなど一定割合で配合した液体を塗布したり、粉体混合させた種子(食用不可)として世界に出荷するとのこと。同施設では、製品開発だけでなく発芽試験、薬害試験、残効試験など検査も行われていました。流行りのバイオスティミュラントについての効能は絶対ではなく、条件が適合する土壌や栽培環境下にある場合において効果はある、とのことでした。
以下、雑感です。
- 品種改良をする中で様々な環境想定下(温度、干ばつ、湿度、日光)での試験がなされている。その後のツアーで視察した農家さんは、低温発芽障害が起こりにくい種子により、昔よりも5~7日ほど播種を前倒しできる=規模が拡大できる、発芽不良が発生しにくい要因になったりしていると言ってました
- 遺伝仕組み替えや遺伝子編集種子は年々収量が増加している。また、日進月歩の技術であるため、5年前の品種がほしいといってもほとんどの場合見つかることはないし、そもそも選択されもしない。種子はメーカーの種子ディラーが各地で営業する。一度経験があるのだが、ディーラーマンが収穫中のハーベスターに乗り込み、「密室」でオーナー農家に営業、種子が決まっていたと(一部の農家だと思うが笑)。今のコンバインは収量モニターが付いていて農家もどの区画に何の品種をまいたか登録されており、収量比較ができてる。
- 各地に種子試験圃場があり、他社製品も含めディーラー等が品種を管理、農家を呼んで次世代品種を紹介している。畑の中に看板が何本も立っている圃場が散見される。
- 健全品種は食糧安保である。World Food Prize(世界食糧賞)のとあるセッションに参加した際に、アフリカ出身の生産者が「我々の地域のジャガイモの収量は2t/acreで、アメリカは20t/acreです。何が問題ですか?」という質問に、パネラー農学博士が「色んな要因があると思うが、2つ挙げるとすれば、1つは健全種子の確保。病気つきの種子を自家増産している可能性が高く、それが蔓延している可能性。2つ目は機械化だ」と。(確かに基本の基だな)
- 遺伝仕組み替え作物の良し悪しは別として、環境変化や食糧担保を数値化するには科学的データは絶対必要な、基礎研究の一部ではないか?
- 企業×農業改良普及所×大学×農家など総合研究プログラムを発達させるとことで、農業系研究職や一次産業関係者になる道筋が大学生たちにも見える化されている。人が産業に残る仕組みがある。日本はこの連携が弱い。これができたらチームで強く動ける可能性が大である!
- こちらのR&Dセンターは社員や来客用のカフェテリアがあり、メキシカンランチは美味しかった。