海外のWEBメディアには、バイテク農業に関する優れた記事がたくさん掲載されていますが、日本国内のメディアはこうした内容の記事を忌避するため、我々には届きにくいのが現状です。そこで日本バイオ作物ネットワーク(JBCN)では、著者や掲載元から許可をとり、日本語に訳して当サイトに転載します。記事一覧はこちら。今回は、Global Farmer NetworkからV. Ravichandran(V・ラヴィチャンドラン )の記事を転載してお送りします。ありがとう、ラヴィチャンドラン!
元記事:
Global Farmer Network
Participating in a Sustainable and Prosperous Future for Rice Cultivation
私は、米の革命的な栽培方法 — 増収し、労働力とその費用を抑制し、土壌を保護し、節水し、気候変動に立ち向かうことができる — について準備を進めている。
一つの作物がこれだけのことを達成することを信じられないかも知れないが、これがインドの稲作の現実であり、未来でもあるのだ。
世界はこの米の革命を必要としている。なぜならば米は、世界人口の半数にとっての主食だからだ。農業におけるこれ以上のインパクトはないだろう。
これほどの前進を得られたのは、稲が雑草を打ち負かす能力を持つという驚くべき技術に依るところが大きい。「除草剤体制イネ」(略称:HTR)と呼ばれるこの技術は、直播と併用することで、私のようなコメ農家を次のレベルへと引き上げてくれるだろう。
そして、この技術は、発展途上国における農業の進歩を妨げてきた紛争を回避させる可能性すら持つ。
最近まで、除草剤耐性作物の多くは、科学者たちが遺伝子組み換え技術 — 農家が使用する除草剤に耐えられるよう、作物の遺伝子を改良 — することによって開発されてきた。この技術によって以前よりも狭い土地で、しかし多くの作物を収穫できるようになった。
しかし、HTRは違う。従来の育種技術を使用することで開発されたのだ。自生による成長は望めないものの、農家の技術下において栽培・管理されることで、その特徴が発揮され、十分な生育を遂げることができる。
この革命、歴史に残る成功物語は、the Indian Council of Agricultural Research(ICAR インド農業研究評議会)がインド北部で広く栽培されていたバスマティライスに除草剤耐性という特徴を与える方法を学んだ時、始まりました。それを知った私は、インド南部で栽培されている非バスマティライスも対象にして欲しいと声明を出しました。
その後まもなくして、タミル・ナドゥ農業大学の科学者たちは、従来の育種技術を用いて、非バスマティライスにHTRを導入してくれた。そのため声明から長く待つことなく、2021年9月、私はCo51と呼ばれるHTRの非バスマティライスを播種した最初の農家の一人となった。
従来の — 苗床で育てた苗を田んぼに移植するのではなく、直播する技術も同時に取り入れたため、革新はさらに素晴らしいものとなった。これまでよりも10日ほど早く収穫できると期待している。
HTRと直播の組み合わせは、多くのメリットを生み出す。その一つは、作物を雑草から守るための多大な労力が不要になるというものだ。これにより農家は別の作業に時間と労力を費やすことができるようになり、費用も抑制できる。
そして、さらに素晴らしいことに、この方法は使用する水の量を減らしてもくれる。
これまでコメ農家が実施してきた雑草管理は、田んぼに水を張ることだ。誰もが知るとおり、これは効果的だが、費用も人的労力もかかる。いまや水は貴重な天然資源であるというだけでなく、その重量(1平方メートルあたり200kg)が土壌を押しつぶし、物理的構造を変えて通気性を排除してしまう。そして、メタンという温室効果ガスを排出することは多くの人が知るところだ。
HTRと直播の相乗効果よって、節水と土壌の保護、メタン抑制による気候変動への貢献といったメリットを獲得できるので、インドのコメ農家の多くが採用するのではないかと私は見ている。しかし、誰もがアーリーアダプターになれるわけではない。これが広まるのにはまだ数シーズンを要するかも知れないが、それを見れば分かる。成功は伝染するだろう。
残念なことに、すでに活動家たちはHTRに反対の声を上げ始めている。彼らは科学よりも政治を優先し、発展途上国、特にここインドに大きな損失をもたらした。HTRに対する懐疑論を引き起こしたことで、ナスやマスタードの作物の進歩を阻害し、農家はもちろん、消費者にも損害を与えることとなった。
官民問わず、この画期的な技術について正しい教育を広め、反科学的な運動によって広まった誤解を払拭するよう動き出すべきだ。
この革命が、私たちの農業の新たな常識となり、持続可能で豊かな未来が約束されるために。
V・ラヴィチャンドラン(V. Ravichandran)
6エーカー(約2.4ha)の農地でコメ、サトウキビ、綿、豆類を栽培する。夏季に貴重な水資源を有効活用するため、スプリンクラーと点滴灌漑を導入。機械化を進める彼の農場の従業員は12名。Global Farmer Networkのボードメンバー。同団体のKleckner Global Farm Leader Award受賞者(2013年)。