Cherilyn Jolly-Nagel(シェルリン・ジョリー・ナーゲル)のプレゼンテーション@東京カンファレンス’23

2023年12月13日(水)東京赤坂で日本バイオ作物ネットワーク(以下、JBCN)が開催したリアルイベント「東京カンファレンス’23」の振り返りコンテンツをお送りいたします。

第一部はカナダ サスカチュワン州から来日したCherilyn Jolly-Nagel(シェルリン・ジョリー・ナーゲル)のプレゼンテーション、続いて第二部、小林武史さん(音楽家、農業経営者)、津田麻衣さん(筑波大助教。遺伝育種科学、リスクコミュニケーション)、Cherilyn Jolly-Nagelさん(農家)、Krista Thomasさん(カナダ穀物協会 Vice President)、中森剛志さん(JBCN副理事長、農業経営者)、司会:徳本修一によるパネルディスカッションという二部構成となります。

今回は第一部、Cherilyn Jolly-Nagelさんのプレゼンテーションを、今回特別に会員以外の方にも公開いたします(第二部のパネルディスカッション記事は会員限定とする予定です)。

なお、本来はJBCNの会員の皆様には動画コンテンツをお届けする予定でしたが、音声品質が非常に悪く、当日のライブ配信も満足に視聴できる状態ではなかったことから、今回テキストベースでの提供となりました。ご了承ください。


みなさん、こんにちは。今日はお招きくださり、ありがとうございます。

カナダから来たシェルリン・ナーゲルと申します。JBCNの最初のリアルカンファレンスに登壇できて、非常に光栄に思います。

来日して、日本流のおもてなしに感銘を受けています。

また、昨日農場訪問をさせていただいた山﨑さんにはあらためて感謝を伝えたいと思います。昨日、お米を栽培している山﨑さんの農場を訪問し、素晴らしいプレゼンテーションと農業機械を視察することができました。その体験を通じて、日本とカナダの違いではなく、むしろ私たちに多くの共通点があることに気付かされました。

徳本さんとは友だちです。私も参加するGlobal Farmer Networkの会合で昨年2月にアルゼンチンで初めて会い、すぐに打ちとけて一緒にダンスする仲間になりました。それから1年も経たないうちに彼はJBCNを立ち上げ、このようなカンファレンスが開催されたことに非常に驚きました。

あらためて、JBCNのカンファレンスに登壇できることを嬉しく思います。

日本はカナダ、そして私の農地があるサスカチュワン州にとっても非常に重要なパートナーです。そのサスカチュワン州の美しい写真を共有しながら、私の家族、私の農地の物語についてお話できればと思います。またカナダの農家が、不耕起や遺伝子組み換え作物(以下、GMOs)などの技術をどのように活用しているかについてもシェアしたいと思います。

カナダでは広大な農地に広がる様々な地域で様々な穀物を栽培しています。土地は広大ですが、人口はわずか3800万人しかいませんので、世界中の国との連携、貿易が重要になってきます。カナダは世界中の多くの国に農産物を出荷していますが、特に日本は最大の取引国で、上位3か国に入ります。ちなみに残り2か国はアメリカ、中国です。

サスカチュワン州から日本に輸出した農産物は、昨年だけで1270億円にものぼります。輸出している上位5品目は以下のとおりです。

  1. キャノーラ種
  2. 小麦
  3. デュラム小麦
  4. 大豆
  5. キャノーラ油

私たちの農業について

さて、私たちの話をしたいと思います。

私も、私の夫も、農家の4代目として生まれました。初代から数えて120年間、サスカチュワン州で農業を営んできました。現在では6000haの農地を管理しています。

私たちの暮らすモスバンク(Mossbank)は非常に小さな街で、人口わずか360人ほどです。この小さな街で買い物をしたり、子どもたちは学校に行ったり、郵便を受け取ったりしています。私も、私の夫もこの街で同じように育ち、生活してきました。

私たちの農業は冬に、1年の準備から始まります。その頃、地面は完全に雪に覆われています。モスバンクの冬の寒さは非常に厳しく、気温がマイナス20度、時にはマイナス40度にまで下がることもあります。

この冬の間に、その年の計画を立て、準備を進めていきます。準備は3つのステージに別れます。1つ目は、どの場所に何をどれだけ栽培するか、そしてその費用も見積もり。2つ目はロジスティックス、機械類に関すること、3つ目は全体の予算や加入する保険の選定などです。

とはいえ、冬は私たちにとって遊びの季節でもあります。

4月の終わり頃から播種を開始します。種子は様々なリスクを低減してくれるものを重視して選定しています。例えば現在栽培しているキャノーラは、種子が鞘から飛び散って飛散しないよう品種改良されたものを選定しています。

播種は2台のトラクターと2台のトラックを使って行います。この播種機は幅が20メートルもある大きなものです。タンクには種子、肥料が入っています。タンクは非常に大きいので頻繁に補給する必要はありません。

播種作業は24時間、シフトを組んで休みなく実施します。

夫のデイビッドは夜のシフトが気に入っています。電話やメールが届くことのない夜は作業に集中できるし、自分だけの時間を楽しむことができるからです。

写真は、私たちが育てているヒヨコ豆です。多くの食物繊維とたんぱく質を供給してくれます。

これは私たちが栽培しているキャノーラで、GMOsです。

GMOsのキャノーラが最初に導入されたのは1995年で、現在ではカナダのおよそ4万3000の農家が栽培しており、カナダ産のキャノーラの99%以上がGMOsになります。輸出額は年間で300億カナダドルにのぼります。

続いてはレンズ豆です。主にバングラデシュなどに輸出されています。

これはオオムギです。ビールの原料として知られていますね。日本はビールの大消費国ですので、たくさん輸入してくれていると思います。

デュラムコムギも栽培しています。主に麺類の原料として知られる穀物ですね。

作物を播種し、育ち始めると、次に防除作業が必要になってきます。この作業を専門業者に委託する農家もいますが、私たちはほとんど全ての作業を自分たちで行うようにしています。害虫や雑草の状況などを自分たちの目で確認し、防除の必要性やどの程度の農薬が必要なのか使用量を決定します。

日本ではドローンなどで圃場の状況を確認する農家もあると思いますが、我々の農地はあまりに広大であるため、そうしたテクノロジーが活用できていません。自分たちの目で確認するほかないのですが、いつかドローンが活用できる時が来ることを祈っています。

農薬を散布する場合は、ブームスプレイヤーなどで散布します。飛行機での散布を依頼する場合もあります。

農薬の種類や量、用法は法律やルールに従ったものであり、農作物は安全であることを強調しておきたいと思います。安全な農作物を栽培することが農家の最も大切な使命の一つだと理解していますが、農薬を使用することに不安を感じる消費者が少なからずいることは知っています。私たちは彼らとしっかり丁寧にコミュニケーションし続けていく必要性も理解しています。カナダの人口に占める農家の割合はおよそ2%で、我々の声が市場に対して影響力を発揮するのは難しい状況です。だからこそ、こうしたカンファレンスをはじめ、様々な機会を通じて農家の声を発信していくことが非常に大切だと考えています。

秋は農家にとって非常に喜ばしい、興奮を覚える収穫の季節です。

通常、収穫するためのハーベスターと、収穫した農産物を積むためのトラックの2台体制で収穫作業を実施します。農産物や気候条件にもよりますが、この作業は6週間から数か月に及びます。

忙しい時は家族全員が長時間、作業に従事することになるので、互いに労りの気持ちを持つことが大切になってきます。

この写真は穀物貯蔵用のビンです。およそ1万1000トンの穀物を貯蔵することができます。

いまお見せしている写真は数十年前のものです。土地が非常に乾燥していることが分かります。

私たちはこの土地を改良しながら、より少ない土地からより多くの収穫物を得るために、最新のテクノロジーを活用してきました。それが「不耕起(No-Till)」と「バイオテクノロジー」です。

不耕起農業と種子イノベーション

不耕起農法は、耕さない、つまり土地を傷つけることなく農産物を栽培する方法です。

農家は農産物を栽培することとは必ずしも直結しない目的、例えば除草のために土地を耕すことがあります。耕すという作業は、農家にとって非常に一般的です。しかし土地を耕さないことは、多くの利点をもたらすことが分かってきました。例えば、土壌水分をいたずらに放散せず、保持できることです。また農業機械を動かす必要がないため、燃料の使用を大幅に下げることができます。これは経営コストを押し下げるとともに、気候変動に対するリスクを下げることにも寄与していると考えています。

私たちが不耕起栽培に取り組みはじめたのは、およそ25年前です。周囲の農家たちはその少し前、30年ほど前から実施していました。一度不耕起栽培を実践してその利点を知ったあとに、元の農法に戻っていく農家の話をあまり聞いたことがありません。徐々に不耕起を採用する農家は増え、サスカチュワン州でいえば、現在95%以上の農家が不耕起栽培を実践しています。

不耕起のための種子開発も進み、より少ない土地やリソースでより多くの収穫物を得ることができています。

我々の農場ではGMOsのキャノーラを20年間栽培し続けています。

技術的には主に雑草対策として非常に有用であることを実感しています。加えて農産物の収量増、燃料や労働コストの低下などさまざまなメリットを享受していますが、最終的には消費者も同様です。生産性が高まれば農産物を安定的に、手に入れやすい価格で買うことができるからです。

バイオテクノロジーの活用は、収量の増加だけでなく、土地が持つ課題の解決にも寄与しています。私たちが望んでいるのは、干魃耐性を持った品種の開発です。なぜならばサスカチュワン州は乾燥した土地であり、また近年は尋常でないほど乾燥することが増えてきたからです。

とはいえ私たちはこの土地で何世代にも渡って農業ができていることに幸せを感じています。このことが持つ価値を夫、娘たちと共有することができていることも喜びです。

私の2人の娘は、幼い頃から農場の仕事を手伝ってくれていますが、これを通じてチームワークの大切さ、新しいことに挑戦することの尊さを学ぶことができているようです。昨日訪問したヤマザキライスでも、同様の価値観を見出すことができたように思います。どの農家も、より良い農業を探究し、それに挑戦していることを確信したわけです。

農家として会議などに参加すると、しばしば「農業の未来を語ってください」と依頼されることがあります。農業の分野においても、新しい技術革新が日々たくさん生まれてきています。徳本さんがよくやっているように、歌い出したくなる踊り出したくなるような素晴らしい技術も多いです。しかし本質的な問いかけは、どんな技術が生まれたかではなく、農業の未来を誰が担っていくのか、というものだと考えています。

日本もそうであるように、カナダでも農業人口は減少しています。どんなに素晴らしい技術が生み出されたとしても、それを使う人がいなければ意味がないように思えます。日本が新しい技術を理解し、受け入れ、アクセス可能な環境をつくることは、現在の農家のためだけでなく、次世代の農家たちのために必要なことなのかも知れません。

未来の農業を担う

ここで、大きなトラクターとともに育ってきた2人の農業の担い手を紹介したいと思います。私の娘たち、クレアとアディソンです。

(シェルリン)隣に写っているのは、クレアのボーイフレンドですね。ちなみに、労働の対価はきちんと支払っていますよ。

(シェルリン)彼女は運転しながら大音量でロックを聴いているんですよ笑。

本人たちに直接言うことは少ないのですが、私たちの農場にとって欠かせない働き手に成長してくれています。

家族として忘れてはならないのは、私の夫であるデイビッドです。彼はあまり人前に立って話すのが好きではないのですが、質問があればぜひ聞いてみてください。

農業を営む家族として、より良い農業をしていくために必要な種子イノベーションを国が進めてくれていること、それを市場や消費者が受け入れてくれていることに感謝したいと思います。

そして農家がより様々なリスクの低減できるようなイノベーションの発展にも期待しています。

カナダの経済にとって農業は欠かせないものですが、現代の農業はイノベーションなくして成り立たないものだと考えています。そのイノベーションとは主に、肥料に代表される化学的なもの、農業機械、そして種子に対するもの、この3つです。

今日は私の話を聞きにお越しくださり、ありがとうございます。質問があればお答えしますし、またあとでみなさんとお話できることを楽しみにしています。

(シェルリン)私が、そして徳本さんも参加するGlobal Farmer Networkでは、世界の様々な国の農家がそれぞれの気候や条件下で不耕起を実践している、その情報を直接やりとりすることができています。

サスカチュワンの話になりますが、4〜9月の降水量は200mmほどしかありません。非常に乾燥している状態です。私たちに関して言えば、土壌中の水分をできるだけ保持したいという考えが不耕起をはじめる大きなきっかけだったと思います。

(シェルリン)私たちの経験から言えることは、耕起をしなければ、前年からの有機物が圃場の土壌内に残り、良い状態になっているということです。これが何年も続き、有機物がどんどん堆積していくわけです。

また機械的な技術革新も進んでいます。あれだけ大きな機械で播種するわけですが、かなり上手く作業することができます。

(シェルリン)この播種機、以前はシャベルのような形状でしたが、現在はナイフ状になっています。そのため必要以上に土を掘り返すことがありません。

この白いホースの中を種子や肥料が通っていき、先端のナイフ状になっている部分から土中に播種、または散布されていきます。

(シェルリン)我々は農地でキャノーラやレンズ豆を育てていますが、同時に同じ場所で収入源としての二酸化炭素を所有しているとは考えていませんでした。

(シェルリン)カナダだけでなく全世界で同じ課題があるように思います。私たちのように家族で農業経営している場合、なおさら重要な問題です。私の娘たちは農場で育ち、今のところそこでの作業を楽しんでくれているように見えます。しかし一方で厳しい現実も当然ありますので、その部分についても伝えていく必要があると思っています。

どんな産業でもそうですが、何かを始めようとする人に問題やリスクだけを伝えていてもダメで、どんな魅力があるか、今私たちはどんなことにワクワクしながら農業をやっているかも伝えていくことが大切だと感じます。特に若い人は新しいこと、ファッションやインターネットなどに強い関心を持ちますね。農業においても新しい技術、新しいチャレンジがあることが、彼らにとっての魅力の一つになるのではないでしょうか。

カナダで新たに農業を始めるのは、ほぼ不可能と言っていいぐらい非常に高額な初期投資が必要です。ゆえに、農業をやりたいと考えるなら、誰かがやっている事業を継承する必要があります。

(シェルリン)不耕起以前は、農地の半分を耕作に用い、残りの半分は使わずに休ませる必要がありました。当時は土地を半分ずつ、しっかり耕して、しっかり休ませる、これが当たり前でしたし、問題ないと思っていました。しかし不耕起を始めて全ての農地を使うようになってから、はるかにメリットが大きいことが分かりました。同じ時期に栽培する農産物をマスタードからキャノーラに変えたことも大きな影響がありましたし、面積が広がることで除草作業など増えましたし、収穫後の残さを一定の長さで揃えて残しておくなどやることも増えました。それにGMOsの種子は高いですし、農業機械は非常に高額です。しかしそれ以上に収穫量が増えました。


Cherilyn Jolly-Nagelによるプレゼンテーションの書き起こしは以上です。

続くパネルディスカッションの記事(JBCN会員限定)については、もう少しお待ちください!